東京地方裁判所 昭和43年(借チ)1075号 決定
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔決定理由〕一、本件資料によれば次の事実が認められる。
(一) 申立人は相手方から昭和三一年三月一日東京都世田谷区祖師谷二丁目四二九番二五宅地500.19平方米のうち四三二平方米(130.82坪)を、期間昭和五一年二月末日まで、普通建物所有の目的の約で賃借した。
(二) 申立人は昭和三一年二月二五日右土地賃借の権利金として相手方に金一〇〇万円を支払つた。
(三) 右借地契約には賃借地の現状を著しく変ずる時は地主の承諾を要し、土地明渡し返地の際は借地人の費用をもつて原形に復すべき旨の特約がある。
(四) 申立人は右地上に木造瓦葺平家建居宅96.69平方米(29.25坪)を所有してきたが、新たに自家用自動車保有のため別紙記載の車庫を、右建物に手を加えることなく右土地内の空地に築造することを計画し昭和四三年四月頃相手方の承諾を求めたところ、相手方はこれより先昭和四一年四月分以降本件土地の賃料値上げを要求していたが申立人がこれに応ぜず従前の賃料の供託を続けていたため、右賃料の増額について相手方の要求どおり支払えば本件増築を承諾する旨答え、申立人が賃料増額について相手方の要求のままには認めないため本件増築について協議が整わないものである。
(五) ―<略>―相手方は申立人の他にも近隣の約一〇〇人に土地を賃貸しているが、そのうち賃料増額請求に応ぜず紛争中の者が最近はかなり多数に及んでいる。申立人は近隣の借地人約四〇人と共に借地研集会という会を組織している。相手方は申立人に対し地代値上訴訟の準備中である。
二、そこで本件申立および附随の処分について判断する。
(一) 本件申立にかかる車庫の築造は、借地の通常の利用上相当であり、許容を不相当とすべき特段の事情もないのでこれを認可すべきである。
(二) 附随の処分
鑑定委員会は本件申立許可の附随処分として、
1、本件車庫築造により地主に買取請求権行使による負担の増加と土地変形による地価の低下の不利益を生ずるので、その調整のため金六万円の財産上の給付を命ずること
2、賃料については月坪あたり六〇円に増額すること
を相当としている。
しかし、財産上の給付については、本件車庫の築造は主たる建物には全く手を加えないので借地権の存続期間には影響を与えないと考えられること、買取請求権行使による負担増加については、本件車庫の構造が極めて簡単なものにすぎず、耐用年数から考えてそのような負担増加が生ずるかどうか不確実でもあり、またかりにそれが生ずるとしてもそれを借地人に予め補償させるべきものとは断定できないこと、地形変化による地価の低下については本件借地契約の条件として前記のとおり返地の際借地人において原形に復すべき約定があり、申立人もこれを履行する旨述べていること、また自家用車の必要性が一般に増加しつつある時代においてはこのような工事が地価の低下を生ずるとは必ずしも断定できないこと、以上のような点を考慮すると本件程度の増築工事に伴う利害調整のため申立人に財産上の給付を命ずることは、その根拠が薄弱であつて相当ではないと認められる。
次に賃料増額の点については、前記のとおり本件工事計画の以前から紛争が続いており、また申立人と同じく相手方から借地し申立人の近隣に住む多数の借地人と相手方との間に同種の紛争が存在し、本件において賃料額を決定すればそれらの借地人にも影響を及ぼすと考えられること、相手方は本件工事の有無にかかわらず、昭和四一年四月分からの賃料増額を請求しており、訴訟の準備中であること等の事情を考慮すると、この点については借地法一二条による調整に委ねるのが相当であり、本件において増築に伴う利害調整のための附随処分としてこれを決定することは妥当でないと認められる。(白石悦穂)
増築の内容 北側公道に面し間口約三米、奥行約4.5米、プラスチック屋根の車庫を築造する。ただし敷地を約0.8米堀り下げ道路と平面とし、三方にコンクリート土留を施す。